日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票のページ

 


 

内容

日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票マニュアル】

【日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票】

【文献】

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 ERI日本語マニュア ル2007 (pdf)

 ERI日本語調査票2005 (pdf)

 職場環境等改善のための「努力−報酬不均衡モデル
職業性ストレス調査票」活用マニュアル
(pdf)

 日本人におけるERI平均得点(MS Word file)

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【日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票】

以下は,Siegristらにより提唱されている努力−報酬不均衡モデル調査票日本語版(短縮バージョン: Siegrist, Starke, Chandola, Godin, Marmot, Niedhammer, & Peter, 2004)である。

尺度構成 日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票の開発プロセス 信頼性 妥当性 実施方法 テスト所要時間 尺度得点の結果を解釈するための基準〉〈尺度の限界  


〈尺度構成〉  TOPへ戻る

ドイツの社会学者Siegrist1996)が提唱している努力―報酬不均衡モデルに基づく職業性ストレス調査票であり,集団を対象とした疫学的応用を念頭においている。状況特異的な要因を測定する「外在的な努力」「外在的な報酬」という2つの尺度と個人要因を測定する「オーバーコミットメント」という尺度からなる。「外在的な努力」という構成概念は仕事の要求度,責任,負担を測定する6項目から構成される。一方,「外在的な報酬」は就業者が仕事から得られるもの,もしくは期待されるものとして経済的な報酬(金銭),心理的な報酬(セルフ・エスティーム)およびキャリアに関する報酬(職の安定性や昇進)を測定する11項目からなる。本モデルは「職業生活において費やす努力と,そこから得られるべき,もしくは得られることが期待される報酬がつりあわない」高努力/低報酬状態をストレスフルとする。努力および報酬項目はストレスフルな状況の有無を尋ねた後,その状況にどれほど悩んでいるか4段階で測定し,15点得点を配点する。努力項目の得点と報酬項目の得点比に項目数を補正する係数を乗じ努力―報酬不均衡状態の指標とする。

本モデルでは,「オーバーコミットメント」という構成概念を導入することにより,状況面からのみならず,仕事に過度に傾注する個人の態度や行動パタンを危険な個人要因として測定しようとする。この行動パタンは,仕事上認められたいという強い願望と関連するとされそれ自体リスク要因と考えられるが,モデル内では努力−報酬不均衡状態を修飾するものとしても位置づけられている。すなわち,他人より先んじたいという競争性や仕事の上で認められたいという欲求のために,必ずしも良好とはいえない就業状況(高努力/低報酬状態)を甘受したり,その認知のゆがみ(要求度に対する過小評価やリソースに対する過大評価)から実際の報酬に見合わない過剰な努力をしたりするとされる。「オーバーコミットメント」を測定する尺度には29項目からなるオリジナル版と,その後のテストで妥当性が確認された6項目からなる短縮版がある。短縮版は「全く違う〜全くその通りだ」の4件法で測定され,それぞれに1-4点が配点される。

対象属性は,努力−報酬不均衡モデルを適用する際の重要な背景要因かつ交絡因子として,また,尺度標準化を進める材料として測定を進めているが,内容は調査対象の実情に応じて使用者により変更可能である。  

〈日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票の開発プロセス〉   TOPへ戻る

英語版の調査票を邦訳後,英語およびドイツ語への独立した逆翻訳を経て調査票を作成し,男性歯科技工士105人(41±10歳)を対象とした横断調査を行った。内部一貫法による信頼性と構成概念の因子妥当性,および筋骨格系自覚症状を指標とした併存妥当性を確認した(Tsutsumi, Ishitake, Peter, Siegrist, & Matoba, 2001)  

〈信頼性〉   TOPへ戻る

多種職において信頼性の検討がなされている。各尺度のクロンバックのαはそれぞれ,外在的努力.65-.88,外在的報酬.81-.96,オーバーコミットメント(短縮版).67-.80である。3ヶ月の間隔をおいた再テスト法では外在的努力.67-.73,外在的報酬.65-.72,オーバーコミットメント(短縮版).71の相関が得られている。項目反応理論に基づいた分析では各項目の高い識別力が確認された(Tsutsumi, Watanabe, Iwata, & Kawakami, 2002)  

〈妥当性〉   TOPへ戻る

妥当性については,心身の自覚症状や喫煙などの健康破壊行動を指標とした併存妥当性(河野, 三木, 川上, & 堤,2002; Tsutsumi, Ishitake, Peter, Siegrist, & Matoba, 2001),社会人口学的属性別の得点分布に基づく弁別妥当性(Tsutsumi, Kayaba, Nagami, Miki, Kawano, Ohya, Odagiri, & Shimomitsu, 2002),因子妥当性(Tsutsumi, Ishitake, Peter, Siegrist, & Matoba, 2001; , 2000),組織のリストラクチャリングに対応するストレス指標の反応性(Tsutsumi, Nagami, Morimoto, & Matoba, 2002)が確認されている。

〈実施方法〉   TOPへ戻る

外在的な努力:ERI1-ERI6

Siegristは,調査対象がブルーカラーや肉体労働に従事する職種であれば全質問項目を,主にホワイトカラーで占められる対象であれば,身体的負荷(項目 ERI5)を除いた5項目バージョンの使用を薦めているが,これまでの経験から,日本人就業者において6項目バージョンでとくに信頼性が低下する所見は見られていない。

採点方法は,次のように定められている:努力要素の得点は項目ERI1-ERI6の6項目のチェックボックスの右側にある数字を合計して算出する。これらの評点の合計得点は尺度としての一次元性が確認されている。外在的な努力を測定する5項目バージョンに基づく総得点は5点から25点(6項目バージョンでは6点から30点)の範囲をとり,得点が高いほど,回答者によって経験されている外在的な努力が高いと考えられる。

外在的な報酬:ERI7-ERI17

職業上の報酬を構成する3つの因子構造が想定されている:金銭や地位に関連する第1因子(ERI11, ERI14, ERI16-ERI17),尊重報酬として定義される第2因子(ERI7-ERI10, ERI15),職業の安定性に関する満足によって定義される第3因子(ERI12-ERI13)。

次のような採点方法がとられている:報酬得点はこの11項目のチェックボックスの右側にある数字をすべて合計して算出する。高得点(最高55点)は高報酬を,低得点(最低11点)ほど低報酬による悩みが強いことを意味する。

努力/報酬比:

努力項目の得点を分子に,報酬項目の得点を分母において努力/報酬比を計算する。異なる項目数を補正するために,分母に補正因子を乗じる(補正因子は,分子が5項目を含む場合0.4545 (5/11)で,6項目を含む場合は0.5454 (6/11))。努力/報酬比1.0を域値としてハイリスクグループ(比>1.0)とリスクのないグループ(比<=1.0)をカテゴリ化する。これまでの実証研究による予測妥当性の検討から,この2変量値をERIモデルの外在的な構成要素のサマリー指標として使用することが提案されている。

Pikhartらは,努力/報酬比を対数変換することにより連続変数として算定する方法を提案している。この操作により,同レベルの不均衡(たとえば0.52.0)が1.0(努力と報酬が等しい)から同距離にあるようにみなされる。Pikhart(2001)は,2変量に比べてこの算定方法が統計学的パワーを高めることを示しているが,両指標は今後比較検討されていくことになると思われる。

オーバーコミットメント:OC1-OC6

モデルの内在的な構成要素は,オリジナル(29項目)の心理テストに基づいた短縮版によって測定される。これら6項目はオリジナルにおける項目37, 38, 43, 44, 52, 57と等価である。

採点方法は,全く違う(1), 違う(2), その通りだ(3), 全くその通りだ(4)(注:項目OC3のみ逆のコーディングを行う)というスコア化により,6点(最低点)から24点(最高点)の得点が算出される。この連続変量も利用できるが,高得点3分位をハイリスクグループ(変量=1)と定義し,残りのグループ(変量=0)と分離する2変量を算出することが薦められている。  

以上の採点基準は,Siegristらが現時点で推奨している方法であり,今後,心理特性に関する知見の蓄積により変更される可能性がある。  

〈テスト所要時間〉   TOPへ戻る

5  

〈尺度得点の結果を解釈するための基準〉   TOPへ戻る

ERI日本語版マニュアルpdfファイルの【付表】を参照。

〈尺度の限界〉   TOPへ戻る

そのモデルで定義される「努力-報酬不均衡状態」の曝露割合が,モデルが開発された西ヨーロッパ諸国に比して,いくつかの国においてかなり低率であることが分かってきた(Pikhart, Bobak, Siegrist, Pajak, Rywik, Kyshegyi, Gostautas, Skodova, & Marmot, 2001; Tsutsumi, Kayaba, Nagami, Miki, Kawano, Ohya, Odagiri, & Shimomitsu, 2001)。このために,ストレス指標を利用した統計学的パワーが若干不足する傾向がある。その理由として,調査対象が代表する集団の特性や,それらが置かれている社会経済的および文化的背景など様々なものが考えられるが,昨今の経済のグローバライゼーションなどを考慮すると,翻訳等価の課題の解決は急務である。

 
 

【日本語版努力−報酬不均衡モデル調査票についての問い合わせ・資料請求先】
 

堤 明純
産業医科大学 産業医実務研修センター
807-8555 北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1
電話093-691-7167 ファックス093-692-4590
e-mail:tsutsumi@med.uoeh-u.ac.jp